大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

那覇地方裁判所 平成5年(行ウ)11号 判決

那覇市牧志三丁目一番三号

原告

合資会社並里商会

右代表者無限責任社員

高良盛介

右訴訟代理人弁護士

上野光典

牧志要

那覇市旭町九番地

被告

那覇税務署長 座間味浩

右指定代理人

細川二朗

林田雅隆

倉本正博

武藤彰

呉屋育子

郷間弘司

荒川政明

古謝泰宏

富村久志

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

原告の昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度について被告のした平成元年七月六日付け「法人税等の更正決定通知書」をもって法人税額を更正し、重加算税を賦課した更正決定処分(ただし、平成二年一月二三日付けで被告のなした右更正処分の一部取消部分を除く。)を取り消す。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二事案の概要

本件は、被告が、原告会社に対し、平成元年七月六日、昭和五八年三月期の法人税について受贈益が計上されていないことを理由として更正決定をしたところ、原告会社が右更正決定は更正の要件を欠くとして、処分の取消しを求めるという事案である。

一  争いのない事実等(証拠上明らかに認められる事実も含む。)

1  当事者等

原告会社は、日用品等の販売及び飲食を業とする合資会社であり、昭和五七年七月六日当時の社員は、無限責任社員が亡高良盛一及び高良盛介であり、有限責任社員が高良光子、高良盛隆、高良盛勝、高良盛雄、高良盛雅及び高良盛久であった。

亡高良盛一(以下「亡盛一」という。)は、原告会社の前代表者であり、昭和五七年七月六日に死亡した者である。

高良盛介(以下「原告代表者」という。)は、亡盛一の長男であって、亡盛一の死後、原告会社の代表者に就任した者である。

亡盛一の相続人は、原告代表者並びに高良盛隆、高良盛勝、高良盛雄、高良盛雅、高良盛久、宮里せつ子、輿儀克子及び岸本富子(原告代表者以外の相続人を総称して、以下「盛隆外七名」という。)の合計九名であり、他に相続人はいない。

2  亡盛一の死亡による相続の発生

亡盛一は、昭和五六年四月一七日、公正証書遺言によって、亡盛一所有の別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)を原告会社に遺贈する旨の意思表示(以下「本件遺贈」という。)及び弁護士大城宏子を遺言執行者に指定する旨の意思表示をした(以下「本件遺言」という。)その後、亡盛一が昭和五七年七月六日に死亡し相続が開始したことから、同年九月二七日、遺言執行者である弁護士大城宏子が相続人全員に対し本件遺言書を公開した。

3  原告会社、原告代表者及び盛隆外七名の行った確定申告

亡盛一の相続人の一人である原告代表者は、亡盛一に係る昭和五七年分の所得税の準確定申告書を相続人の代表として法定申告期限(昭和五七年一一月六日)後の同月一一日に提出した。右申告書には、本件遺言により、本件各土地が原告会社に遺贈されたことに基づき発生する、いわゆる「みなし譲渡所得」(所得税法五九条一項一号)の金額が計上されていなかった。

原告代表者及び盛隆外七名の相続人は、昭和五八年一月五日、本件各土地が未分割の相続財産であるとして他の相続財産と併せて相続税の申告書を期限内に提出した。

原告会社は、昭和五八年五月三一日、本件各土地が原告会社に遺贈された場合に発生する受贈益を法人の所得に加算することなく、別表のとおり昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度(昭和五八年三月期)の法人税の確定申告をした(以下「本件確定申告」という。)

4  相続人間での紛争の発生

(一) 原告会社は、昭和五八年五月三一日、盛隆外七名に対し、別紙物件目録一記載の土地について、本件遺贈を放棄する旨の意思表示をした。そして、原告会社は、同年六月一日、原告代表者及び盛隆外七名から別紙物件目録一記載の土地を代金一億九八〇〇万円で買い受けた。右土地については、那覇地方法務局昭和五八年六月一三日受付第一八〇八二号をもつて、昭和五七年七月六日相続を原因とする原告代表者及び盛隆外七名を共有者とする所有権移転登記がされ、同法務局昭和五八年六月一三日受付第一八〇八三号をもって、同月一日売買を原因とする原告会社に対する所有権移転登記がされた。

(二) 盛隆外七名は、昭和五八年九月二〇日、原告代表者及び原告会社に対し、本件遺贈によって盛隆外七名の遺留分が侵害されているとして、遺留分減殺の意思表示をした(以下「本件遺留分減殺」という。)。

盛隆外七名は、昭和五九年三月一五日、原告代表者及び原告会社を相手方とする家事調停の申立て(那覇家庭裁判所昭和五九年(家イ)第一二五号)をして、本件各土地ほかの亡盛一の財産について、盛隆外七名が本件遺留分減殺によって、共有持分を有することの確認を求めた。そして、盛隆外七名は、昭和五九年三月二九日、本件各土地ほかの亡盛一の財産について、原告代表者を相手方とする遺産分割調停の申立て(那覇家庭裁判所昭和五九年(家イ)第一四三号)をした。

(三) 別紙物件目録八ないし一三記載の各土地について、那覇地方法務局昭和五九年六月二六日受付第一九六二二号をもって、本件遺贈を原因とする原告会社への所有権移転登記がされた。

盛隆外七名は、昭和六〇年七月一三日、原告代表者及び原告会社を被告とする土地共有持分確認等請求の訴えを提起し(那覇地方裁判所昭和六〇年(ワ)第四一四号)、盛隆外七名が別紙物件目録二ないし二一記載の各土地の共有持分を有することの確認を求めた。

別紙物件目録二ないし七記載の各土地について、那覇地方法務局昭和六三年一月一三日受付第一九六五号をもって、本件遺贈を原因とする原告会社への所有権移転登記がされた。

盛隆外七名は、昭和六三年六月二八日、前記共有持分確認等訴訟について訴えを変更し、別紙物件目録二ないし一三記載の各土地について原告会社に対してなされた所有権移転登記について、主位的には、本件遺言の無効を原因とする抹消登記手続等を請求し、予備的には、本件遺留分減殺に基づいて、盛隆外七名が別紙物件目録二ないし二一記載の各土地の共有持分を有することの確認を求めた。

(四) 別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地について、那覇地方法務局昭和六三年一一月二二日受付第三二九三一号をもって、昭和五七年七月六日相続を原因とする原告代表者及び盛隆外七名への所有権移転登記がされた。

(五) 共有持分確認等訴訟について、平成三年二月一九日、原告代表者及び盛隆外七名並びに原告会社との間で、裁判上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。本件和解の和解条項には、本件遺言が有効であることの確認(第一項)、別紙物件目録一記載の土地について、原告会社が遺贈を放棄し、原告代表者及び盛隆外七名が相続により共有持分権を取得し、これを原告会社に売り渡したことの確認(第三項)、別紙物件目録二ないし二一記載の各土地について、原告会社が本件遺贈を原因として所有権を取得したことの確認(第五項)、別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地について、本件遺留分減殺請求を原因として、盛隆外七名が各自八分の一の共有持分を取得したことの確認(第六項1)、別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地についての原告代表者に対する持分九分の一の所有権移転登記を錯誤を原因として抹消し、盛隆外七名の共有持分を各八分の一と更正する登記手続に原告代表者が協力すること(第六項2)、原告会社が、盛隆外七名に対し、遺留分減殺に代わる価額弁償として、合計一五億円の支払義務があることを認め、これを分割して支払うこと(第七項)等が記載されている。

5  本件訴えの対象となる課税処分

(一) 被告は、平成元年七月六日、原告会社に対し、昭和五八年三月期及び昭和五九年三月期ないし昭和六三年三月期の法人税には、本件各土地について、本件遺贈に基づく受贈益及び地代収入が昭和五八年三月期に発生しているので、その計上もれが存在し、かつ、国税通則法六八条一項所定の事由が認められるとして、昭和五八年三月期の法人税について、別表のとおり更正及び重加算税の賦課決定(以下「本件更正決定」という。)をした。なお、昭和五九年三月期ないし昭和六三年三月期の法人税についても計上もれが存在することになるとして、それぞれ更正した。

(二) 原告会社は、平成元年七月一四日、本件更正決定に対し異議を申し立てたところ、被告は、平成二年一月二三日、別紙物件目録一記載の土地については、遺贈の放棄がされたので、受贈益及び地代収入の発生も存しないほか、右土地についての固定資産税額を経費と認めた点についても原処分には誤りがあると認め、別表のとおり本件更正決定の一部を取り消し、その余については異議を棄却する旨の決定(以下「本件異議決定」という。)をした。

(三) 国税不服審判所長は、平成二年二月一七日、原告会社から右異議決定に対する審査請求がされたので、平成五年三月三一日、右審査請求には一部理由があると認め、計算誤りの認められる二二九万八七〇〇円については、取り消すのが相当であるとして、別表のとおり本税の額二二九万八七〇〇円を取り消し、その余については審査請求を棄却する旨裁決し(以下「本件裁決」という。)、その旨通知した。

(四) 原告会社は、平成五年六月二三日、那覇地方裁判所に対し、被告に対する本件訴えを提起し、本件更正決定(本件異議決定で一部取り消された部分を除く。)の取消しを求めている。

6  本件訴えに関連する課税処分

(一) 亡盛一の所得税

被告は、平成元年一一月六日、亡盛一の所得税について、亡盛一には、本件遺贈により、別紙物件目録二ないし二一記載の各土地の価額相当額の「みなし譲渡所得」(以下「本件みなし譲渡所得」という。)が発生するとし、かつ、本件みなし譲渡所得の発生について、当初の準確定申告書に記載がなかったのは、原告代表者の判断に基づくものであって、国税通則法六八条一項所定の事由が存するとして、亡盛一の相続人である原告代表者において、新たに納付すべき所得税の本税の額が五七九一万九〇〇〇円である旨の更正及び重加算税二〇二七万一六〇〇円の賦課決定をした。

原告代表者は、平成元年一二月一日、右課税処分に対する異議を申し立てたところ、被告は、平成二年三月七日、右異議申立てをいずれも棄却する旨決定し、その旨通知した。

原告代表者は、平成二年四月九日、右異議決定に対し審査請求を申し立てたところ、国税不服審判所長は、平成五年三月三一日、右の審査請求を棄却する旨裁決し、その旨通知した。

原告代表者は、平成五年六月二三日、被告がした本件所得税更正及び賦課決定(平成元年一一月六日付け)の取消しを求める訴えを、那覇地方裁判所に提起した(那覇地方裁判所平成五年(行ウ)第一〇号)。

被告は、本件和解が成立した平成三年二月一九日から三年以内である平成六年二月一五日、亡盛一の所得税について、別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地は、右和解により、盛隆外七名に現物返還することが確定したことに伴い、右土地部分の本件みなし譲渡所得はなかったものとなるとして、国税通則法七一条二号に基づき、職権による減額更正をした。

(二) 亡盛一死亡に係る相続税

原告代表者は、平成三年六月二七日、被告に対し、亡盛一死亡に係る相続税について、本件和解によって、原告代表者の相続分が減少したから、その分は減額すべきであるとして、更正を請求した。

被告は、平成五年一二月一四日、原告代表者に対し、右相続税について更正をすべき理由がない旨通知した。原告代表者は、平成六年一月一二日、右通知に対し異議を申し立てたところ、被告は、同年二月一〇日、右の異議申立てを棄却する旨決定し、その旨通知した。

原告代表者は、右異議決定を不服として、平成六年三月七日に国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、同審判所長において審理中で、裁決がされるには至っていない。

被告は、本件和解が成立した平成三年二月一九日から三年以内である平成六年二月一五日、本件相続税について、亡盛一の所得税のみなし譲渡に係る本税額の債務控除加算もれがあつたと認め、債務控除額(当初申告額一二五万〇三九〇円)が、四三二四万五三九〇円、課税価額(当初申告額三億二九五四万一〇〇〇円)が、二億八七五四万六〇〇〇円、相続税の総額(当初申告額六億一八六八万一六〇〇円)が、五億九三四八万五一〇〇円、並びに納付すべき税額(当初申告額一億四七八七万一三〇〇円)が、一億二三七六万一八〇〇円、減少する相続税の本税の額が、二四一〇万九五〇〇円であると判断し、国税通則法七一条二号に基づき、職権による減額更正をした。なお、右の亡盛一の所得税のみなし譲渡に係る本税額の債務控除加算もれ分は、前記(一)で述べた所得税減額更正(平成六年二月一五日付け)により職権で減額された後の金額である。右は、被相続人である亡盛一の債務であり、かつ、相続税法一三条二項所定の「その財産に係る公租公課」に該当するものである。

(三) 本件更正決定に係る法人税についての更正請求

原告会社は、平成三年六月二七日、本件和解に基づき、盛隆外七名に現物返還した別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地に係る受贈益部分及び価額弁償金一五億円を支払うことが確定した別紙物件目録二ないし一三に係る受贈益部分等については、昭和五八年三月期事業年度の損金に算入すべきであるとする旨の更正の請求書を被告宛て提出した。

被告は、平成三年九月三〇日、原告会社の更正の請求に対して、右更正の請求は、その請求期限である二か月を経過しているから認められないとして、更正の請求に理由がない旨の通知をした。なお、右の通知に対して異議申立てはされなかった。

二  原告会社の主張

1  受贈益の不発生

(一) 原告会社の本件遺贈に対する態度

原告会社は、相続開始後確定申告した昭和五八年五月三一日の前日までは本件各土地について何ら遺贈の放棄も承認もしていない。右申告日に別紙物件目録一記載の土地について遺贈の放棄をし、別紙物件目録二ないし二一記載の各土地については放棄も承認もしていない状況であった。その後、昭和五九年六月二六日に別紙物件目録八ないし一三記載の各土地を、昭和六三年一月一三日に別紙物件目録二ないし七記載の各土地について、本件遺言をめぐって相続人間での紛争が長期化した中で、各相続人らの相続税の支払の財源を確保する必要があり、被告からもその請求を受けていたので、やむなく遺贈を原因として所有権移転登記を行った。それ以外の別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地については、遺贈を原因として原告会社が所有権を取得した事実はない。すなわち、土地所有権の推移をみると、別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地は亡盛一の所有から相続により相続人全員の共有となり、最後に盛隆外七名の共有財産になっている。一度も原告会社の名義に変更されたことはないし、原告会社としてもその意思は全くなかったのである。

よって、別紙物件目録一及び一四ないし二一記載の各土地については、原告会社は遺贈を受けておらず、別紙物件目録一記載の土地について、被告が本件異議決定において受贈益の発生を否定したのは正当である。しかし、別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地について被告は異議申立てを却下している。被告は右各土地についても受贈益の発生を否定すべきである。

仮に、本件異議決定で受贈益の発生を否定しなかったことが適法であるとしても、平成三年二月一九日、本件遺留分減殺訴訟において当事者間に本件和解が成立し、この時点で、別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地について確定的に所有権が原告会社に帰属しなくなった(右各土地について原告会社が遺贈を放棄した。)のであるから、被告は、本件更正処分の取消しをすべきであった。にもかかわらず、被告は、原告会社の更正の請求(前記一の6(三))を却下した。

(二) 受贈益発生の時期

遺言は遺言者死亡の時から効力を生じるものであるが、遺贈においては受遺者に承認及び放棄の選択権がいつまでも与えられており、法律上はその期間の制限はない(民法九八六条)。ただ、受遺者が承認も放棄もしない場合には利害関係人らの催告権を認めて、相当期間内に受遺者が承認、放棄の意思表示をしなければ遺贈を承認したものとみなすとして、早期の相続財産の法的安定性を確保する手段を認めており、(民法九八七条)、民法九八六条ないし九八八条の規定から判断すると、黙示の遺贈の承認は予定されていない。そして、遺贈を放棄すればその効力は相続開始時に遡る。

したがって、遺言に基づいて遺贈がなされたからといって当然に相続開始時に当該物件の所有権が確定的に受遺者に帰属すると考えることはできない。特に、本件遺言のように過重な税の負担を伴う遺贈の場合には、被告の考え方に立てば受遺者は遺贈者の単独行為により犠牲を負わされることになるので極めて不当である。また、通常の社会では、本件のように遺贈の有効性について本質的な争いがなされているときに受贈の意思を表明することは極めて困難なことである。

(三) 本件和解の解釈

別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地は、本件和解により盛隆外七名の相続人らの共有財産になっている。これは遺留分減殺に基づいて共有財産となったものではなく、右各土地について盛隆外七名の相続人によって相続登記がされ、それを琉球バスに売却する話が出された時、あるいは遅くとも本件和解設立時に、原告会社が遺贈を放棄したことの反射的効果として所有権が移転したものである。本件和解条項において、原告会社が右各土地の所有権を取得し、遺留分減殺請求を原因として右各土地についての盛隆外七名の所有権を認めるとしたのは和解上のテクニックのためである。このことは、原告会社への遺贈で相続分を侵害されたのは原告代表者も同じであるが、原告代表者は遺留分減殺請求をせず、自分の持分について相続を放棄していることから明らかである。また、原告会社は、税務上どのような和解条項を作成したらいいのかということは全く考えていなかった。結局、本件和解は実質上の遺産分割協議であって、原告代表者と原告会社と盛隆外七名の話し合いによる遺産分割を、訴訟が係属していたので、その手続にのませたまでのことである。

原告会社は、本件確定申告当時、本件和解の和解条項で和解することなど考えてもおらず、また、和解は紛争を終結させることとその結果が重要なのであり、必ずしも真実と合致した和解条項が作成されるわけではない。したがって、本件和解の和解条項に重きをおいた被告の見方は不当である。

2  「偽りその他不正の行為」の不存在

(一) 原告会社が本件確定申告を行った理由

本件更正処分は、本件確定申告に対してなされるものであるから、申告前の行為は相当範囲「偽りその他不正の行為」を判断するにあたり斟酌されることは当然であろうが、申告後の行為、言動については事情及び背景が申告時と相当変化した場合には斟酌するのは不合理である。基本的には申告時までの行為、言動等を十分斟酌し、その後の言動等は申告時の事実を推認する間接的な事情と考えるのが相当である。

すなわち、原告会社は、昭和五七年九月二七日、本件遺言の存在を盛隆外七名と一緒に遺言執行者から聞いた。その時、盛隆外七名は本件各土地が原告会社に遺贈されていることに驚き、自分たちの相続権や遺留分が侵害されていることに立腹した。ただ、原告会社及び原告代表者は他の相続人らと紛争を起こすことは考えていなかったので、盛隆外七名の権利を侵害するのであれば、原告会社は遺贈を受けないで原告代表者及び盛隆外七名の間で話し合いをして妥当な結論を出すことを考えていた。なぜなら、遺贈については受遺者が何時でも放棄できる(民法九八六条)ということを知っていたので、盛隆外七名との話し合いの進行状況を見ながら本件各土地の所有関係を決めればいいと考えていたからである。

ただ、確定申告日までに原告代表者及び盛隆外七名の話し合いが合意に達しなかったので、原告会社は本件各土地について受贈益を計上せずに昭和五八年五月三一日、本件確定申告をした。本件各土地は未分割の相続財産として昭和五八年一月五日に原告代表者及び盛隆外七名が申告をしている。

このように遺言が有効か無効かは確定しない状況であったので、原告代表者及び盛隆外七名の相続財産で未分割として確定申告をするしか方法がなかったことからすると、本件について「偽りその他不正の行為」があったものということはできない。

(二) 原告会社が遺贈を原因として移転登記を受けた理由

原告会社が本件遺言で所有名義を変更した理由は、各相続人の相続税を支払うためであり、やむを得ず所有名義を変更せざるを得なかったためである。ただこの時期は確定申告日よりも後の昭和五九年六月二六日と、昭和六三年一月一三日であるから、昭和五八年五月三一日時点では当然受贈益は生じていなかったのであって、被告のいう不作為にとどまらず、ことさら過少申告の作為的な行為を原告会社が行ったと批判することはあたらない。原告会社は、当初から税理士に相談しながら税務申告を行っていたのであり、遺贈による所有名義を変更して銀行から相続税の支払財源を確保した時も、被告の担当者に事情を説明して納税が遅れないように誠意を持って対応していたのである。原告会社が故意に遺言書を隠していたのであれば、反対に遺贈に基づく本件各土地の名義変更は避けるのが普通である。なぜなら、登記簿謄本に所有名義の変更が遺贈を原因としてなされたことが記載されるので、被告の担当者にすぐわかるからである。

(三) 原告会社が本件遺言書を隠匿しなかったこと

原告会社は他の相続人らとの間で裁判所において遺産に関する調停や訴訟を継続しており、そこで遺言の有効性や遺留分減殺の問題が中心として争われているので、遺言書自体の存在を被告担当者は早くから知っていたと思っていた。

原告代表者が現実に被告担当者と本件遺言について直接話したのは、昭和六二年一二月一日であり、これは二回目の遺贈による所有名義変更の前である。被告は昭和六三年五月一四日に遺言書の存在を知ったと主張するが、正確には右の昭和六二年一二月一日の午後一時三〇分ころ、原告代表者が被告の資産税務部門上席国税調査官森東道夫及び北那覇税務署資産税務部門上席国税調査官前川敏充に対し、本件遺言書の存在を説明しているのである。このように原告会社は故意に遺言書を隠して不正な申告をしたのではなく、遺贈による名義変更をした後にその部分について適正な修正申告をすることを被告担当者に伝えていたのである。

(四) 受贈益申告の困難性

盛隆外七名が遺留分減殺請求権を行使したのは、昭和五八年九月二〇日であるから、別紙物件目録二ないし二一記載の各土地についてどの部分かは正確には不明であるが、原告会社が遺贈を受けた本件各土地の一部が遺留分減殺請求権者に帰属しているのである。原告会社としては、どの程度の受贈益を申告しなければならないかは裁判の推移を見た上でなければ確定できないので、本件和解以前に受贈益を申告することは不可能であった。

(五) 別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地についての受贈益申告

国税通則法七〇条五項が予定する「偽りその他不正の行為」とは、「不正」という反社会的な行為者に対するペナルティを課す要件であり、どのような解釈をしてもなお「不正」といえるような行為でなければならない。特に別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地については、原告会社は一度もその所有権を取得しておらず、名義すらも変更していない。このような土地について受贈益を申告しなかったとしても、「偽りその他不正の行為」に該当するとはいえないと考えるのが常識に合致する。

(六) したがって、原告会社及び原告代表者の言動や行為について「偽りその他不正の行為」に該当するようなものはない。

3  重加算税

重加算税の賦課要件である「仮装、隠ぺい行為」は、文言の意味や立法趣旨から判断して、「偽りその他不正の行為」のなかで程度の高い悪性(積極的な行為)のある行為であり、「偽りその他不正の行為」の範疇に含まれるものと解される。既に述べたとおり原告会社には「偽りその他不正の行為」が認められないので、「仮装、隠ぺい行為」も当然に認められない。

4  被告の矛盾した各課税処分の不当性

亡盛一の相続財産について、税の発生することが可能性として存するものとして、(一)原告会社の受贈益による法人税 (二)亡盛一のみなし譲渡所得として課される所得税(共同相続人らが相続) (三)共同相続人らの相続税の三つがある。

原告会社は本件確定申告時に受贈益に係る法人税を申告せず、共同相続人らが相続税の申告をした。法人税が発生しない以上、みなし譲渡所得は発生しないので、みなし譲渡所得は申告していない。

被告は、平成元年七月六日、原告会社の法人税に関して本件更正決定を行った。この時、被告としては、本件各土地のすべてについて更正決定をして法人税の賦課を行った以上、共同相続人らの相続税については職権で相続税の賦課処分を取り消す必要があった。なぜなら、同一の不動産について、相続税と法人税とが同時に徴収されるという不当な結果になるからである。ところが、被告は、相続税の方はそのままにして法人税のみ本件更正決定をしたため、二重課税という事態を発生させた。その上、本件みなし譲渡所得に対する所得税についても更正決定したので原告会社及びその他の共同相続人らは三重の課税という極めて不合理な税負担を強いられる結果となった。

その後、被告は、平成二年一月二三日、本件異議決定により、本件更正決定の一部を取り消し、別紙物件目録一記載の土地については法人税の賦課を取り消したが、その余の法人税の取消しは現在までなされていない。一方、本件みなし譲渡所得に対する所得税については、別紙物件目録一記載の土地の法人税の取消しに伴って、その部分のみなし譲渡所得に対する課税を除外して平成元年一一月六日に更正決定しているのみならず、平成六年二月一六日に別紙物件目録一四ないし二一記載の共同相続人らが取得した土地については、職権による更正でみなし譲渡所得に対する課税を取り消している。

このように、被告は、法人税の賦課のみなし譲渡所得税の賦課について矛盾した態度をとっている。さらに、法人税と相続税に関しては、別紙物件目録二ないし二一記載の各土地について二重の課税が行われており、被告の矛盾した課税の姿が一段と明白になっている。

被告は、国税通則法二三条二項が事業所得に係る所得税や法人税にあっては適用されないので、本件の場合にも当然適用されないと主張する。しかし、遺贈と遺留分減殺請求とは収益と費用という関係にないし、売買契約等の営利行為と比較することは不合理である。本件の遺贈に基づく原告会社の受贈益は被相続人の一方的な行為によって発生するものであって、一般の会計処理にそぐわないものである。

5  よって、原告会社は、被告に対し、本件更正決定(本件異議決定によって一部取り消された部分を除く。)の取消しを求める。

三  被告の主張

1  原告会社の受贈益の発生

(一) 法人税の収益計上時期

法人税の所得金額計算に当たり、収益及び損金を計上すべき時期について、法人税法は一般的な規定を置いていないが、企業会計上の発生主義の原則等にかんがみ、法人税法上も、所得税法と同じく、原則として権利確定主義ないし権利発生主義がとられているものと解されている(同法二二条四項参照)。そして法人税法二二条一項は、収益の計上時期について、「内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」と規定し、当該益金の額に算入すべき金額については同条二項において、「別段の定めがある場合を除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」と規定している。

(二) 遺言の効力発生時期

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生じるのであり(民法九八五条一項)、遺言者が死亡した場合には、その受遺者が当該遺贈者の死亡及び遺贈の事実を知ると否とに関わらず、受遺者がその遺贈を放棄する場合を除き、当然に死亡の時からその効力が生じるものである。そして、特定物又は特定の権利が遺贈されるときは、大審院以来の確定した判例や多数説によれば、原則として、当然に物権的に権利が受遺者に移転すると解されている。

したがって、本件各土地は被相続人の死亡時(昭和五七年七月六日)に原告会社が遺贈により取得したものであり、被相続人の死亡の日の属する本件事業年度に発生したと解するのが相当である。ところで、原告会社が遺贈の放棄をしたと認められるのは、別紙物件目録一記載の土地のみであるから、別紙物件目録一記載の土地以外の本件各土地は、亡盛一の死亡時(昭和五七年七月六日)に、原告会社が遺贈により取得したものであり、死亡の日の属する本件事業年度に原告会社に受贈益が発生したものである。

なお、このように解したとしても、その後、遺留分減殺請求等がなされ、これに伴う具体的な受贈益の変動があった場合には、その変動があった時点の事業年度において損金として処理することになるのであるから(法人税法二二条三項及び四項)、遺言者の死亡の日の属する事業年度において、受贈益を計上することが、受贈者の利益を著しく害することにはならないのである。

(三) 本件和解の解釈

遺留分権利者は、遺留分を保全するに必要な限度で遺贈の減殺を請求することができるとされ(民法一〇三一条)、特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合、遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受遺者が取得した権利は遺留分を侵害する限度で、当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属する(最高裁昭和五一年八月三〇日第二小法廷判決・民集三〇巻七号七六八頁)。また、遺留分減殺請求権の行使により遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象財産としての性質を有しない(最高裁平成八年一月二六日第二小法廷判決・民集五〇巻一号一三二頁)。

そうすると、本件和解条項は、遺産分割の合意とは、その本質を異にするものである。そして、本件和解条項は、その条項の文言から明らかなとおり、原告会社による本件遺贈の承認又は放棄について合意されたものでもなく、本件遺贈が有効なものであることを前提にして、本件遺留分減殺による現物返還の範囲と一部現物返還の義務を免れるための価額の弁償について、合意されたものである。すなわち、別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地が盛隆外七名の共有に帰属すると争いなく確定したのは、本件遺贈が有効に成立していたことと、本件遺留分減殺がされたことを前提にして、本件和解により現物返還の合意がされたことに基づくものであるし、別紙物件目録二ないし一三記載の各土地が遺留分権利者である盛隆外七名に返還されないことが争いなく確定したのも、本件和解により、現物返還の範囲と価額の弁償について合意されたからにほかならない。

なお、別紙物件目録一記載の土地が原告会社の所有に帰属したのは、原告会社が本件遺贈を放棄した上、原告代表者及び盛隆外七名との間で売買契約を締結した結果である。

(四) したがって、被告は、本件遺言書によって、本件事業年度において、別紙物件目録二ないし二一記載の各土地の「無償による資産の譲受」が、原告会社に発生したことから本件課税処分を行ったものである。

2  「偽りその他不正の行為」の存在

(一) 「偽りその他不正の行為」の意義

国税通則法七〇条五項の「偽りその他不正の行為により」とは、法定申告期限前において、(1)納税者が虚偽の申告書を提出し、その正当に納付すべき国税の納付義務を過少ならしめてその不足税額を免れたとき、及び(2)納税者が名義の仮装、二重帳簿の作成等の積極的な行為をなし、法定申告期限までに申告納税せず正当に納付すべき税額を免れたとき、並びに法定申告期限が経過したときにおいては単純無申告の状態にあった納税者がその法定申告期限後において、(3)虚偽の申告をし、その正当に納付すべき税金の納付義務を過少ならしめてその不足税額を免れたとき、(4)税務官庁の決定に対する異議申立て又は審査請求をするに当たり、虚偽の事実を主張してその主張するところにより正当な国税の納付義務を過少ならしめたとき、(5)税務職員の調査上の質問又は検査に際し虚偽の陳述をしたり、申告期限後に作為した虚偽の事実を呈示したりした場合において、その陳述し主張するところにより正当な国税の納付を過少ならしめた時等が、これにあたると解されている。

「偽りその他不正の行為」について、最高裁判所昭和五二年一月二五日第三小法廷判決(訟務月報二三巻三号五六三頁)は、「偽りその他不正の行為とは、税額を免れる意図のもとに、税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうものであって、単なる不申告行為はこれに含まれないものである。そして偽計その他の工作を行うとは、名義の仮装、二重帳簿を作成する等して、法定の申告期限内に申告せず、税務職員の調査上の質問に対し虚偽の陳述をしたり、申告期限後に作出した虚偽の事実を呈示したりして、正当に納付すべき税額を過少にして、その差額を免れたことは勿論納税者が真実の所得を秘匿し、それが課税対象となることを回避するため、所得の金額をことさら過少に申告した内容虚偽の確定申告書を提出し、正当な納税義務を過少にしてその不足税額を免れる行為、いわゆる過少申告行為もそれ自体単なる不申告の不作為にとどまるものではなく、偽りの工作的不正行為といえるから、右にいう「偽りその他不正の行為」に該当するものと解すべきである。」と判示した原審の判断を正当として是認することができるとしている。

(二) 本件における「偽りその他不正の行為」

(1)本件各土地は全部原告会社に遺贈するという内容の本件遺言書が存在する。(2)亡盛一の長男である原告代表者は、相続税の申告当時、本件各土地が原告会社に遺贈されていることを了知していた。(3)原告代表者及び盛隆外七名は、昭和五七年一〇月ころ、亡盛一に係る相続税の申告書の作成を行った田本税理士から、本件遺言書どおり遺言を実行すれば、原告会社への遺贈に基づく法人の受贈益の計上及び亡盛一のみなし譲渡の申告を行うべきである旨、また、原告会社が遺贈を放棄して全相続人が未分割で申告すれば、本件遺言書どおり申告するのに比して三億二〇〇〇万円程度の節税になる旨の説明を受けており、いかなる申告形態を採用するかによって、本件各土地に対する課税額に違いが出ることを十分認識していた。(4)別紙物件目録一記載の土地以外の本件各土地については、遺贈の放棄がなされていない。付言すれば、原告会社は、本件法人税の確定申告の際に、本件遺贈の放棄をする意思を有していなかったのに、その後に所有権移転登記をするなど、自ら本件遺贈を承認する行動に出ていたのであって、本件各土地が未分割の相続財産であるかのように仮装していたものといわざるを得ない。これに反し、本件遺贈を放棄することを前提にしていたなどという原告代表者の主張は採用できない。

したがって、遺贈の放棄が申告時になされていない以上、被相続人の準確定申告においては、本件各土地に係るみなし譲渡所得の申告が必要であり、原告会社の確定申告においても受贈益の申告が必要なことは明らかであった。それにもかかわらず、本件各土地が未分割であるとする相続税の申告を行うとともに、被相続人の準確定申告においてみなし譲渡所得を申告せず、原告会社においても遺贈による受贈益を申告しなかったことは、「所得金額をことさら過少に申告した内容虚偽の申告行為」であって、単なる所得計算の違算や忘失というものではなく、原告会社が正当な税額の納付を回避する意図を基になした過少申告行為と認めるのが相当であり、右過少申告により法人税を過少にして、その不足額を納付しなかったことは国税通則法七〇条五項の「偽りその他不正の行為により税額を免れた」ことに該当するというべきである。また、原告会社は、法人税に係る調査の際に、本件遺言書の存在を意図的に明らかにせずに隠ぺいし、これにより正当に納付すべき本件法人税を過少に確定させたといえる。

(三) したがって、本件更正決定の除斥期間は、同項により七年ということができるので、右期間内になした本件更正決定は適法である。

3  重加算税

(一) 「隠ぺい、仮装行為」の意義

国税通則法六八条一項一号の「事実の隠ぺい」は、二重帳簿の作成、売上除外、架空仕入若しくは架空経費の計上、たな卸資産の一部除外等によるものをその典型的なものとする。また、「事実の仮装」は、取引上の他人名義の使用、虚偽答弁等をその典型的なものとする。いずれも、行為が、客観的にみて隠ぺい又は仮装と判断されるものであれば足り、納税者の故意の立証まで要求しているものではない。

(二) 本件における「隠ぺい、仮装行為」

(1) 最高裁判所昭和六二年五月八日第二小法廷判決(裁判集民事一五一号三五頁)は、「国税通則法六八条に規定する重加算税は、同法六五条ないし六七条に規定する各種の加算税を課すべき納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であり、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから、同法六八条一項による重加算税を課し得るためには、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解するのが相当である。」と判示している。

仮装、隠ぺいの要件は、納税義務違反が課税要件事実の隠ぺい、仮装によって行われた場合には、結果として過少申告等の事実があれば足りると解されるところ、本件においては、原告代表者が課税要件事実である遺言公正証書を隠ぺいし、本件各土地があたかも未分割財産であるかのごとく仮装し、それ受贈益として法人税の対象となることを回避したことは明らかであり、結果として過少申告となっているものである。

したがって、本件における原告代表者の行為は、国税通則法六八条一項一号に規定する課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、仮装した行為に該当し、重加算税の対象となるものであって、本件重加算税の賦課決定処分は適法である。

(2) 最高裁判所昭和五二年一月二五日第三小法廷判決(訟務月報二三巻三号五六三頁)の原審である福岡高等裁判所昭和五一年六月三〇日判決(行裁集二七巻六号九七五頁)は、「真実の所得を秘匿し、それが課税の対象となることを回避するため、所得の金額をことさらに過少にした内容虚偽の確定申告書を提出し、正当な納税義務を過少にして、その不足税額を免れる偽りの不正行為、いわゆる過少申告をなしたもの」については、「国税通則法六八条一項の、国税である所得税の税額計算の基礎となる所得の存在を一部隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出したことに該当」し、「本件重加算税の賦課決定をなしたことは適法で」あると判示している。

本件についてこれをみると、原告代表者は、遺贈の放棄が申告時になされていない以上、原告会社の確定申告においては、受贈益の申告が必要であるにもかかわらず、本件各土地が未分割の相続財産であるとする相続税の申告を行うとともに、受贈益の申告をせず、所得金額をことさら過少に申告した内容虚偽の申告をしたのであって、本件における原告代表者の行為は、国税通則法六八条一項一号に規定する課税標準等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし仮装した行為に該当し、重加算税の対象となるものである。

(3) 最高裁判所平成六年一一月二二日第三小法廷判決(民集四八巻七号一三七九頁)は、「真実の所得金額よりも少ない所得金額を記載した確定申告書であることを認識しながらこれを提出したというにとどまらず、(中略)真実の所得の調査解明に困難が伴う状況を利用し、真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図の下に、必要に応じ事後的にも隠ぺいのための具体的な工作を行うことを予定しつつ、正確な所得金額を把握し得る会計帳簿類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏し、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したことが明らかである。」と判示して、いわゆるつまみ申告に対する重加算税の賦課を認めている。

そして、最高裁判所平成七年四月二八日第二小法廷判決(民集四九巻四号一一九三頁)は、「納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合」には、重加算税の賦課要件が満たされたものと解すべきであると判示する。

これを本件についてみると、原告会社は、本件法人税の確定申告をするに当たり、本件遺贈を放棄しない限り、受贈益を申告すべきであることを十分認識していたのに、田本税理士に対し、本件遺贈を受けない旨を述べて、同税理士をして受贈益を除外した過少な申告書を作成させ、これを被告に提出したのである。

これに加えて、原告会社が本件法人税の確定申告をした後も、本件遺贈を承認する行動に出ており、本件各土地が未分割の相続財産であるかのように仮装していたこと、原告会社への調査の際に、調査担当職員に対し、本件遺言書の存在等本件遺贈に関する事実を意図的に明らかにせず、これを隠ぺいしていたことをも併せ考えると、原告会社が、当初から所得を過少に申告する意図を有し、その意図に基づき本件の過少申告を行ったことは明白である。

そうすると、原告会社は、当初から所得を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものであるから、その意図に基づいて原告会社がなした過少申告行為は、国税通則法六八条一項所定の重加算税の賦課要件を満たすものというべきである。

(三) したがって、本件重加算税の賦課決定処分は適法である。

4  各課税処分相互の関係

被告は別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地については、原告会社主張のとおり、みなし譲渡所得については昭和五七年分の所得税に対する減額処分をし、本件確定申告に係る原告会社の法人税については受贈益の減額処分をしていない。

被告の右行為は一見矛盾しているかのようにみえるが、右差異は、所得税と法人税における課税救済手段の相違によって生じるものであって、矛盾が生じているわけではない。

まず、みなし譲渡所得については、原告代表者から国税通則法二三条二項に基づく更正の請求書は提出されなかったものの、被告は、相続税及び法人税に関する更正の請求書の記載に基づいて、原告会社と盛隆外七名との間に、本件和解が成立した事実を知ったことから、国税通則法七一条二号(国税の更正、決定等の期間制限の特例)の規定に基づき、和解が確定した平成三年二月一九日から三年以内の平成六年二月一六日に職権で減額の更正処分をした。

一方、法人税については、更正の請求期限から二か月を経過しているとして、更正の請求に理由がない旨の通知処分を行ったのであるが、仮に、右更正の請求が二か月以内に提出されていたとしても、もともと法人税においては、和解により現物返還をすること及び具体的に価額弁償金を支払うことが確定した日(平成三年二月一九日)の属する事業年度(平成三年三月期)において損金として処理すべきものなのであって(法人税法二二条三項、四項)、昭和五八年三月期に遡及して減額を求める筋合いのものではない。

国税通則法二三条二項(後発的事由に基づく更正の請求)の規定は、申告時には予知しなかった事態その他やむを得ない事由がその後において生じたことにより、遡って税額の減額等をなすべきこととなった場合に、これを税務官庁の一方的な更正の処分に委ねることなく、納税者の側からもその更正を請求し得ることとして、納税者の権利救済のみちを更に拡充したものであることから、法人税における本件のような事例においても適用されるかのように解されないわけではない。

しかし、事業所得に係る所得税や法人税にあっては、この後発的な更正請求事由の大部分が適用されないのである。なぜならば、収益と費用とが期間的に対応することとされているこれらの税にあっては、例えば、売買が取り消されて戻り品があったときは、それが前期以前の売上に係るものであっても当期の借方に記入されるか、又は戻り品勘定によって処理される家計慣行があり、そのことを前提にして課税標準が算出され、本項の後発的事由に係る更正の請求制度によって、このような慣行までも変更しようとするものではないからである。最高裁判所昭和六二年七月一〇日第二小法廷判決(税務訴訟資料一五九号六五頁)もまた、「法人の所得の計算については、当期において生じた損失は、その発生事由を問わず、当期に生じた益金と対応させて当期において経理処理をすべきものであって、その発生事由が既往の事業年度の益金に対応するものであっても、その事業年度に遡って損金としての処理はしないというのが、一般的な会計の処理であるということができるから、後の事業年度において売買契約が解除されたことを理由とする国税通則法二三条二項に基づく更正の請求は同条一項所定の税額の過大等の実体的要件を欠くものである。」とした原審の判断は正当として是認することができるとしている。

四  争点

1  昭和五八年三月期の受贈益発生の有無

2  「偽りその他不正の行為」の有無

3  「隠ぺい、仮装行為」の有無

4  違法な重複、矛盾課税の有無

第三争点に対する判断

一  遺贈と受贈益の発生の有無

原告会社は、遺贈については、受遺者に承認及び放棄の選択権がいつまでも与えられており、遺贈を放棄すれば、その効力は、相続開始時に遡るのであるから、相続が開始したからといって、遺贈された特定の物件の所有権が確定的に受遺者に帰属すると考えることはできず、特に、本件のように遺贈の効力について相続人間で争いのあるような場合には、受遺者が遺贈の承認の意思表示をすることは困難であり、原告会社が承認も放棄もしていない未確定の状態においては、受贈益は生じていない旨の主張をする。

しかし、遺贈の効力は、受遺者の意思とは無関係に遺贈者の死亡によって当然にその効力が生じ、遺贈のなされた特定の物件の所有権は直接受遺者に移転すると解すべきものであるから、亡盛一が死亡した時点で原告会社に本件各土地についての受贈益が発生したものと解すべきである。また、この理は、盛隆外七名が本件遺贈の効力について争っている場合においても異なるものではない。

ただし、原告会社が、本件遺贈の一部又は全部を放棄すれば、遺贈の放棄は、相続開始時に遡って効力を生じ、遺贈対象物件は、遺言に特段の定めのない限り、相続人に帰属することとなる。

二  原告会社による本件遺贈の放棄の有無

1  甲第三三号証及び原告代表者本人尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

本件遺言書が、昭和五七年九月二七日、原告代表者及び盛隆外七名に公開されると、相続人らの間で自己の相続財産に対する権利関係や相続税負担を巡る問題が生じた。そこで、相続人らが相続税の申告等の手続を田村千恵子税理士に委任し、田村税理士は、田本信勇税理士と共同で受任して適宜相談しながら申告事務を遂行することにした。

田本税理士は、同年一〇月ころ、相続人全員を集めて本件相続に係る課税についての計算書を配布し、課税関係を説明した。田本税理士の説明によれば、各相続人の相続分や遺留分侵害という問題もあるが、それ以上に本件遺贈をそのまま原告会社が受けると相続人全員に亡盛一のみなし譲渡所得について所得税がかかり、原告会社には受贈益による法人税がかかるので、このような加重な税負担は避ける必要があるとのことだった。相続人らがどのようにしたら右の二重課税を回避できるか質問したところ、田本税理士は、原告会社が遺贈を放棄して相続人全員で本件各土地を相続し、後に本件各土地を原告会社に譲渡し、その代金で各相続人が相続税を支払えばよいと助言した。

2  原告会社は、前記1認定の田本税理士の説明を受けて、原告会社及び相続人間で、原告会社が本件各土地の遺贈を放棄し、全相続人が本件各土地を相続することで全員が合意した旨主張し、甲第三三号証及び原告代表者の本人尋問における供述中にはこれに沿う記載及び供述部分がある。

この点、甲第三一号証及び証人田本信勇の証言によれば、田本税理士は、田本税理士の提案を相続人全員が了解したものと受け取り、原告代表者が提案を了解していたので、原告会社が遺贈を放棄したものと理解したことが認められる。

しかし、乙第五号証によれば、田村税理士は、原告会社が遺贈を放棄するのか否かを相談する時間がなかったので、申告期間内に間に合わせるためにとりあえず未分割で申告したこと、未分割で申告したのは原告会社が放棄したということではないこと、原告会社が遺贈を放棄したのは別紙物件目録一記載の土地のみであると理解していたことが認められ、証人高良盛勝の証言によれば、原告会社が遺贈を放棄することに決まったわけではなく、相続人間で相談することになったにすぎないことが認められる。なお、証人田村千恵子の証言中、本件遺言書は相続人らの遺留分を侵害し、また、その有効性についても疑問が呈されていたので、原告会社が遺贈を放棄することについて、原告会社、相続人間で異論はなかった旨の供述部分は、右認定事実に照らし、採用できない。

結局、右認定事実を併せ考えると、原告会社が遺贈をすべて放棄した旨の甲第三三号証における前記記載及び原告代表者の供述等は容易に採用できず、他に原告会社が本件確定申告以前に本件遺贈をすべて放棄したことを推認するに足りる証拠はない。

3  甲第三三号証、乙第二号証、証人田村千恵子の証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば、以下の事実を認めることができる。

原告会社は、相続人間での紛争がまだ本格化していなかった昭和五八年五月ころ、別紙物件目録一記載の土地について、遺贈を放棄した(当事者間に争いがない。)。そして、「今般弊社は左記物件(別紙物件目録一記載の土地)のみの遺贈を受遺しないことにしましたので証明します。」という証明書を作成し、それを資料として那覇地方法務局昭和五八年六月一三日受付第一八〇八二号をもって原告代表者及び盛隆外七名に対する昭和五七年七月六日相続を原因とする所有権移転登記を行い(当事者間に争いがない。)、原告会社が右土地を購入して相続税の支払のための資金を捻出しようとした。しかし、被告が右土地に税金支払のために抵当権を設定するよう要求したので、原告会社はやむなく右土地に原告代表者を債務者、大蔵省を債権者として相続税及び利子税のための抵当権を設定した。そのため、右土地に抵当権を設定して銀行から金員を借り入れることができなくなり、原告会社は別の方法で資金を捻出することを余儀なくされた。

4  その後、原告会社は、別紙物件目録八ないし一三記載の各土地について昭和五九年六月二六日に、別紙物件目録二ないし七記載の各土地について昭和六三年一月一三日にそれぞれ遺贈を原因として原告会社に所有権移転登記をし(当事者間に争いがない。)、甲第一六号証の二ないし一三によれば、原告会社が、右各土地を担保に銀行から相続税支払資金を借り入れたことが認められ、別紙物件目録二ないし一三記載の各土地について、原告会社が本件遺贈を放棄したものとは認められない。

5  別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地については、那覇地方法務局昭和六三年一一月二二日受付第三二九三一号をもって、昭和五七年七月六日相続を原因とする原告代表者及び盛隆外七名への法定相続分に従った所有権移転登記がされたこと、本件和解により原告代表者を権利者とする法定相続分に従った所有権移転登記を抹消し、盛隆外七名の共有名義に更正することが合意されたことについては、当事者間に争いがない。

なお、原告会社が、本件遺言書の公開直後に遺贈を放棄したとの主張が認め難いことは前記二の2で述べたとおりである。

ところで、右各土地については、別紙物件目録二ないし一三記載の各土地と異なり、昭和五七年七月六日相続を原因として原告代表者及び盛隆外七名に対する所有権移転登記がされていることからすると、原告会社がこの時までに遺贈を放棄したとも考えられる。

しかし、本件和解の和解条項を検討すると、原告会社、原告代表者及び盛隆外七名は、本件遺言書が有効であることを確認した上で、別紙物件目録一記載の土地について遺贈を放棄したことを確認する一方で、盛隆外七名が別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地について遺留分減殺を原因として共有持分権を取得し、原告代表者を共有持分権者とする所有権移転登記を抹消の上、盛隆外七名の共有持分登記の更正登記をすることを合意している。すなわち、別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地については遺留分減殺請求に基づき、盛隆外七名に対し、現物返還がされたものと解するのが相当である。

したがって、右条項に照らせば、相続を原因として原告代表者及び盛隆外七名に移転登記がされたことから、右各土地についての遺贈の放棄を推認することはできず、遺留分減殺請求による遺贈の失効を原因として、盛隆外七名に所有権が帰属したものというべきである。

この点、原告会社は、本件和解の文言の形式的な理解にとらわれずに相続紛争の実態を検討すべきとの趣旨の主張をするが、本件和解成立時には既に本件更正決定及び本件異議決定がなされており、原告会社としては多額の税負担を争っていたのであるから、和解条項の検討作成に際し、税負担をも考慮するのが自然であり、本件和解条項を一資料として、本件遺言に伴う権利移転の法律関係を検討するのが相当である。そして、本件和解条項をみると、原告会社が別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地について、遺贈を放棄したとは解し難く、他に右各土地について遺贈の放棄を認める足りる証拠はない。

三  昭和五八年三月期の受贈益の発生の有無

1  別紙物件目録一記載の土地

原告会社が、昭和五八年五月三一日、盛隆外七名に対し、別紙物件目録一記載の土地について、本件遺贈を放棄する旨の意思表示をしたこと、右土地について、那覇地方法務局昭和五八年六月一三日受付第一八〇八二号をもって、昭和五七年七月六日相続を原因とする原告代表者及び盛隆外七名を共有者とする所有権移転登記がされたことについて当事者間に争いのないことは前記二の3で述べたとおりである。そして、本件異議決定において、右土地の遺贈放棄を原因として、昭和五八年三月期に右土地についての受贈益は原告会社に発生していないことを前提として、本件更正決定の一部取消しがなされている。

2  別紙物件目録物件目録二ないし一三記載の各土地

別紙物件目録物件目録八ないし一三記載の各土地について、那覇地方法務局昭和五九年六月二六日受付第一九六二二号をもって、本件遺贈を原因とする原告会社への所有権移転登記がされたこと、別紙物件目録物件目録二ないし七記載の各土地について、那覇地方法務局昭和六三年一月一三日受付第一九六五号をもって、本件遺贈を原因とする原告会社への所有権移転登記がされたことについて、当事者間に争いがない。

右移転登記について、原告会社は、相続税支払資金を捻出するためにやむなく移転登記し、右各土地を担保に銀行から金銭を借り入れた旨説明する。しかし、原告会社が遺贈を原因とする移転登記を申請したこと、右移転登記の後にされた本件和解において本件遺言による遺贈を原因として原告会社が右各土地の所有権を取得したことが確認されたこと、その他右各土地を目的とする遺贈の効力を否定すべき事情が認められないことからすると、原告会社が、亡盛一死亡時に遺贈を受け、右各土地について昭和五八年三月期に受贈益が発生したものというべきである。移転登記を受けた理由として原告会社が説明する背景があったとしても、右結論が左右されるものではない。

3  別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地

別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地について、原告会社による遺贈の放棄が認められないことは、前記二の5で述べたとおりである。したがって、原告会社は、亡盛一の死亡時に右各土地の遺贈を受け、昭和五八年三月期に受贈益が発生したものと認められる。ただし、前記二の5で述べたとおり、誠隆外七名の遺留分減殺請求によって、右各土地について遺贈は失効したが、右失効によって、原告会社に既に生じた受贈益が直ちに影響を受けるものではないことは、後記八で認定するとおりである。

四  受贈益の申告時期

前記一で説示したとおり、遺贈の効力は、受遺者の意思とは無関係に遺贈者の死亡によって当然に効力が生じる(民法第九八五条一項)のであるから、原告会社が本件遺贈の放棄をしない限り、亡盛一が死亡した時点で原告会社に受贈益が発生したものというべきである。そして、原告会社が本件遺贈が無効であるとの盛隆外七名の主張を争っており、前記二で述べたとおり、別紙物件目録二ないし二一記載の各土地について遺贈の放棄もしていなかったことからすると、本件遺贈を有効なものと考えていたことが窺え、したがって右受贈益を亡盛一の死亡年度の属する期である昭和五八年三月期に申告する必要がある。仮に、原告会社が遺贈を放棄する方針であったとしても、放棄を行わなかった場合には昭和五八年三月期に受贈益を申告すべきであり、原告会社の主張は独自の見解であって、採用できない。

五  小括

よって、原告会社には、別紙物件目録二ないし二一記載の各土地について亡盛一が死亡した昭和五八年三月期に受贈益が発したことが認められる。そして、別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地については、遺留分減殺請求に基づく現物返還がされたことに照らし、相続開始時に遡って盛隆外七名の所有に帰属したものというべきである(したがって、右各土地に係る受贈益は結局のところ発生しなかったことになるので、この点については、後記八でさらに検討判断する。)。また、別紙物件目録二ないし一三記載の各土地については、本件和解において現物返還に代わる価額弁償が合意されているが、受贈益の発生自体には何ら変動がない。

六  「偽りその他不正の行為」の有無

前記三で述べたとおり、原告会社には本件遺贈により受贈益が発生した。そこで、受贈益の発生の原因となった遺言書の効力等が係争中である場合に、遺贈を受けるか否かの態度を保留したまま、未分割の相続財産の形で申告することが国税通則法七〇条五項の「偽りその他不正の行為」の要件に該当するか否かが問題となる。

この点、原告会社は遺贈を放棄する方針は当初から一貫していた旨主張する。しかし、前記二で述べたとおり、原告会社が、本件確定申告までに別紙物件目録二ないし二一記載の各土地について遺贈の放棄をしたとは認め難く、かえって本件確定申告後には、本件遺言書を使用して原告会社への所有権移転登記を行ったり、別件訴訟において別紙物件目録二ないし二一記載の各土地については遺贈を放棄していないことを自ら立証しようとしたりする(乙第一号証)等、遺贈の無効又は放棄と矛盾する行動をとっている。よって、原告会社の遺贈を放棄する方針は当初から一貫していた旨の主張は採用できない。さらに、原告代表者は、相続開始直後に、税理士から、本件遺言書に従った申告をした場合に、法人税と所得税の双方が課税されること、本件遺言書に従った申告をした場合の納税額と法定相続分に従った申告をした場合の納税額とを具体的に説明されている。

これらの点を併せ考えると、原告会社は本件遺言書に基づく申告を行った場合には原告会社に対する法人税と亡盛一に対するみなし譲渡課税が課されることを十分理解していたところ、本件遺贈を承認するか放棄するか態度を保留したままで(このような場合、遺贈によって受贈益が発生したものとして申告すべきことは前記四で述べたとおりである。)、本件遺言書に基づかない内容虚偽の計算書類及び確定申告書を提出し、受贈益として発生した本件所得を計上せずに申告したことは、単なる所得計算の違算や亡失というものではなく、正当な税額(本件の場合、別紙物件目録二ないし二一記載の各土地について、本件遺贈を放棄していないのであるから、受贈益を益金に計上して算出された額である。)の納付を回避する意図のもとになした過少申告行為と認めるのが相当である。

この点、原告会社は、未分割の相続財産として申告するしかなかった旨主張するが、受贈益を本件確定申告時に計上すべきであったことは、前記四で述べたとおりであり、本件遺贈を放棄していない状態で受贈益を計上せずに過少申告したことは、更正決定の期間制限の延長要件である「偽りその他不正の行為」に該当すると評価するのが相当であって、原告会社の主張は採用できない。

よって、原告会社には、「偽りその他不正の行為」が認められ、別紙物件目録二ないし二一記載の各土地についてされた本件更正処分は更正期間内に行われた適法なものである。

七  「隠ぺい、仮装行為」の有無

原告会社は本件遺言書により本件遺贈を受けていたにもかかわらず、これを資産として帳簿に記載せず、本件遺贈による受贈益を益金として計上せずに申告を行った。かかる行為は、重加算税の賦課要件である国税通則法六八条一項の「隠ぺい、仮装行為」に該当するというべきである。

この点、原告会社は、正当な課税を免れようとの意図は何らなく、後に修正申告することによって正当な税額を納付するつもりであった旨主張する。

しかし、重加算税が賦課されるには、納税者が故意に課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではない(最高裁第二小法廷昭和六二年五月八日判決・裁判集民事一五一号三五頁)のであるから、受贈益の記載されていない帳簿を故意に作成した本件では、重加算税の賦課要件が認められる。

八  違法な重複、矛盾課税の有無

1  被告は、原告会社が本件各土地について遺贈を受けたとの前提で本件更正決定を行ったが、原告会社の異議申立てを一部容れて、別紙物件目録一記載の土地については遺贈が放棄されたとの前提で本件更正決定を一部取り消す内容の本件異議決定を行った。その後、本件和解成立によって、原告会社が別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地について遺留分減殺請求を受けて現物返還をした(その限りで、本件遺贈は遡って失効する。)ことが確認され、別紙物件目録二ないし一三記載の各土地については現物返還に代わる価額弁償が合意された。

2  本件和解によって別紙物件目録一四ないし二一記載の各土地について本件遺贈が遡って失効したことが確認されたことからすると、原告会社に対する右各土地の受贈益に対する課税は課税要件を欠くに至ったかのようにも考えられる。

しかし、原告会社の本件和解を理由とする更正請求は、法所定の請求期限を徒過していたし、仮に期限内に請求があったとしても、法人税の場合、原告会社の出捐額(価額弁償額)を当該年度における損金として計上すべきであるから、原告会社の更正請求に基づき、あるいは職権で、本件更正決定について減額更正しなかった措置に違法はなく、原告会社の主張は採用できない。また、右に述べた法人税における価額弁償金の扱いからすると、本件みなし譲渡所得を職権で減額更正したにもかかわらず、本件更正決定を減額しない被告の措置に違法はなく、原告会社の主張は採用できない。

3  なお、別紙物件目録二ないし一三記載の各土地については、現物返還に代わる価額弁償が合意されている。右価額弁償によって、本件遺贈自体に何ら変動が生じるものではなく、本件みなし譲渡所得にも影響は生じない(最高裁第一小法廷平成四年一一月一六日判決・訟務月報三九巻八号一六〇二頁)。

よって、右各土地についても本件更正決定に違法はない。

九  結論

前記一ないし八で述べたとおり、本件更正決定(本件異議決定及び本件裁決によって一部取り消された後のもの)はその要件を満たしており、納付すべき税額及び重加算税額は、右決定のとおりである。

よって、原告の請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、改正前の民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成九年一一月一九日)

(裁判長裁判官 喜如嘉貢 裁判官 近藤宏子 裁判官 古河謙一)

物件目録

一 所在 那覇市牧志一丁目

地番 七八九番三

地目 宅地

地積 一〇八六・〇四平方メートル

二 所在 那覇市牧志二丁目

地番 七八九番四

地目 宅地

地積 七三・五八平方メートル

三 所在 那覇市牧志二丁目

地番 七八九番五

地目 宅地

地積 一五七・五一平方メートル

四 所在 那覇市牧志二丁目

地番 七九〇番一

地目 宅地

地積 一八二・四四平方メートル

五 所在 那覇市松尾二丁目

地番 七八九番一二

地目 宅地

地積 一六・九四平方メートル

六 所在 那覇市松尾二丁目

地番 七八九番一〇

地目 宅地

地積 五五・三八平方メートル

七 所在 那覇市松尾二丁目

地番 七八九番一三

地目 宅地

地積 一・三一平方メートル

八 所在 那覇市牧志三丁目

地番 七八九番

地目 宅地

地積 七六〇・七五平方メートル

九 所在 那覇市牧志三丁目

地番 七八九番一

地目 宅地

地積 五七九・一三平方メートル

一〇 所在 那覇市牧志三丁目

地番 七九〇番

地目 宅地

地積 一一四九・四八平方メートル

一一 所在 那覇市牧志三丁目

地番 七九一番

地目 宅地

地積 二七三・三二平方メートル

一二 所在 那覇市牧志三丁目

地番 七九三番

地目 宅地

地積 七三一・六三平方メートル

一三 所在 那覇市牧志三丁目

地番 七九四番

地目 宅地

地積 七四三・三〇平方メートル

一四 所在 那覇市牧志三丁目

地番 三六六番一

地目 宅地

地積 六三五・二六平方メートル

一五 所在 那覇市牧志三丁目

地番 三六七番

地目 宅地

地積 五七八・三七平方メートル

一六 所在 那覇市牧志三丁目

地番 三六八番

地目 宅地

地積 四八四・九三平方メートル

一七 所在 那覇市牧志三丁目

地番 三六九番

地目 宅地

地積 一三八〇・一七平方メートル

一八 所在 那覇市牧志三丁目

地番 三七〇番

地目 宅地

地積 五〇四・七六平方メートル

一九 所在 那覇市牧志三丁目

地番 三七一番

地目 宅地

地積 四六五・六六平方メートル

二〇 所在 那覇市牧志三丁目

地番 三七二番

地目 宅地

地積 五一〇・五五平方メートル

二一 所在 那覇市牧志三丁目

地番 三七三番

地目 宅地

地積 一二二三・四一平方メートル

別表

本件課税の経緯(事業年度57.4.1~58.3.31)

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例